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今年で第3回目となる《市川準監督特集》。今年は、「市川準と昭和」と題して『会社物語 MEMORIES・OF・YOU』と『ノーライフキング』を前半3日間に2本立て上映。後半の4日間は「市川準と男と女」と題し『東京マリーゴールド』と『竜馬の妻とその夫と愛人』の2本立てをお届け。
後半初日には、『竜馬の妻とその夫と愛人』の製作・富山省吾さん、助監督・井上文雄さんをお招きし、特集上映企画者の犬童一心監督とのトークイベントを開催。司会者は市川準監督と親交の深かった映画評論家 尾形敏朗さん。
11月22日火曜日、『竜馬の妻とその夫と愛人』最終上映後、映画を見終わった暖かい雰囲気の中でトークイベントがスタート。(以下レポート)
東宝で撮るということ
尾形敏朗(以下、尾形)第3回市川準監督特集。今日は『竜馬の妻とその夫と愛人』の関係者の方にお越しいただいてトークイベントを行いたいと思います。司会進行の尾形です、よろしくお願いします。まず、企画者の犬童一心監督、どうぞ。
犬童一心(以下、犬童)特集上映の企画をした犬童です、よろしくお願いします。
尾形『竜馬の妻とその夫と愛人』の製作をされました、富山省吾さんです。
富山省吾(以下、富山)こんばんは。
尾形富山さんは東宝の多くの映画のプロデュースをされ、東宝映画の社長を経て現在は日本アカデミー賞協会の事務局長をされております。特に有名なのは平成ゴジラシリーズでしょうか。それに関する著書ですとかインタビューも多くされております。
富山よろしくお願いします。
尾形そして、この映画の助監督をされました、井上文雄さんです。
井上文雄(以下、井上)よろしくお願いします。
尾形井上文雄さんはその前の『たどんとちくわ』も助監督をされまして。そのあとプロデューサーに転じられて、市川さんの作品はWOWOWで放送された『春、バーニーズで』のプロデューサーをされました。今年は話題作『ピンクとグレー』、それと『エヴェレスト 神々の山嶺』。
犬童ちなみに井上さんは僕の『ジョゼと虎と魚たち』のプロデューサーをされて、富山さんは東宝映画の僕が撮った映画のプロデューサー。昔から知ってるんですよね。
尾形まずは富山さんにこの映画の企画の発端の話をお聞きしたいと思っております。
富山仲間なんで井上さんじゃなくてブンちゃんて呼ばせてもらっちゃいますけど。企画の発端はブンちゃんでも僕でもないんですよ。クレジットで企画に名前が出ていた鍋島(壽夫)さんが市川監督で三谷幸喜さんの原作戯曲を映画化したいということでした。
尾形鍋島さんは『つぐみ』の製作でもありますよね。
富山博報堂と東宝を上手に巻き込んで実現に至ったということで(笑)僕は製作プロダクションの完成保証の引き受けですね。この製作費でこの映画をこの監督でこの脚本でやってくださいね。あとはお任せ、っていう(笑)
犬童市川監督から鍋島さんに三谷幸喜の竜馬をやりたいと言ったってことですか。
富山そうですね。演出部を卒業した井上文雄が製作の仕事をしてるんだけども、市川監督に言われたら断れないはずだから、ということでチーフ助監督に来てもらったの。ブンちゃんとうちのプロデューサーの前田(光治)で一蓮托生でやってくれという。
尾形東宝マークが出るとなると、やっぱり東宝なりの興行とかヒットするかどうかとか、もろもろ気にされると思うんですけれども。
富山そういう意味では、記者会見でも「東宝映画のチャレンジだ」という言い方をしましたね。はるか昔、『HOUSE』という映画の製作宣伝やったんですよね。大林宣彦監督はコマーシャルから出た最初の監督でした。市川準監督もまさにCMから映画に進出した方です。東宝映画としては、コマーシャル出身の監督に久しぶりに撮影所に来てもらって、見事なセットを組んで撮ってもらおうと。そういうテーマでしたね。
尾形それまで市川監督の映画ってご覧になってました?
富山東宝映画の先輩プロデューサーの小倉斉さんが『BU・SU』をやっていたので、もちろんお名前も作品も存じあげてたんですけど、全部つぶさに観てるということではなかったです。
犬童三谷さんの映画は『ラヂオの時間』があって『みんなのいえ』があってこれなんですよ。三谷さんの作品ならある程度の人が入るんじゃないかって気持ちはみんなにはあったのかもしれないですね。
井上監督が「僕じゃないんだ、三谷脚本で企画が成立してる」ってのはよく言ってたけど。そういうこという監督じゃないすか。ちょっといじけてみたりして。
富山そのわりにけっこう脚本を直させる(笑)
犬童三谷さんからできあがった脚本について、市川さんは直しは出してるんですか?
井上三谷さんに「どうぞご自由に」ってお墨付きはもらったんですけど、監督のほうでちょっと直して、三谷さんに直しは出してないですよ。あと我々も含めた演出部で意見を言い合って矛盾点ついて、舞台を映画用に作り変えるみたいのは了承もらってやりましたね。
犬童市川さんの映画にしては俳優の人が脚本に書かれているセリフをしゃべってる感じがするなあと思って。
井上いつもみんな「ここまで脚本を変えるのか」って言ってるじゃないですか。脚本通りなんて唯一なんじゃないかなと僕は思ってるんですけど。
犬童この前は鈴木聡さんが『会社物語』でそのことをずーっと1時間半ぐらい言ってましたよ。
一同(笑)
犬童ちなみに富山さん、できあがったときどうでしたか。台本は三谷さんだから、市川さんの台本を市川さんが撮ったのと微妙に違う気がするんですよね。
富山れはそうですね。この映画はまわりの男が騒いでバカやればやるほど、真ん中にいる女の悲しさが出るという。市川さんは女優さんをちゃんと真ん中に据えて撮る人。監督の計算が見事にはまってると思いますよね。
犬童そうですね。
富山それと僕らとしては撮影所の大きいステージに素晴らしいセットを用意して存分に撮ってもらいましょうというのが果たせたなというのは監督に対する思いです。山口修さんの美術すごかったですよね。あとは作品的に僕らが作らないような映画だったなあとは思ってて、それが東宝のラインナップに入ったのが嬉しかった。
井上ファンの方はみんなご存知かもしれないですけど、監督はものすごくフィルムを回す方ですから。東宝からフィルムの許容数を提示されて「絶対ありえない、こんなのすぐですよ」って言ったら、初日で全部使い果たしました。それで「さあ東宝さんどうするんですか、言ったじゃないですか」ってなったら、結局追加になって。
富山僕覚えてる。「言ったでしょ!」ってブンちゃんが(笑)
井上だってありえないフィート数だったんだもん。
犬童撮影前に市川さんには言ったんですか。
井上もちろん説明してますよ。でも、なかったとしたら撮れないわけじゃないですか。当然追加される前提のもとにやってましたね。
富山昔からオーケー尺の4倍がマックスなんですよ。だって成瀬巳喜男さんはその通りに撮ってたんですから。もう、コマしか抜かない。撮影所はそういうもの。
井上東映もそうですけど、このフィルムの尺でこの作品を作りなさいというのが撮影所。昔は台本を1ページめくると許容フィルム数が書いてあったんですから。ある意味市川さんは挑戦状を突きつけられてどうするかなあと思ったら、なんの気にもせず一日で使い果たしちゃった(笑)
富山フィルム時代に「コマーシャルの監督はちょっとね」と言われる(笑)やっぱり撮影所でやってると一番困るのはそこらへんの経験の違いが出ちゃうことですよね。結果の良さと現場の苦労(笑)、どっちのバランスになるかというせめぎ合いがあるでしょうね。