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市川準、市川崑
犬童セットは全部室内で、オープンじゃないんですよね。
井上そうですね、オープンセットはないです。
尾形400坪あるっていう東宝の9番ステージ。
富山犬童さんが『ゼロの焦点』でやったのと同じ大きさですよ。
井上すごいセットでしたよ、ほんとにもう街ですからね。長屋があって空き地があって路地があってお店も作って。
犬童神社はロケですか。
井上あれはロケですね。
富山僕はあの長玉はもう一人の市川を思い出すんだよね(笑)神社撮って階段撮ってると一緒になっちゃう。でもそれをセットの中で同じようにやってる。あの風情だけでなんかもう参っちゃいましたよね。
犬童ライティングの功績があるんですけど、市川さんの映画はセットでもロケに見えるんですよ。セットと知ってるのに、いつの間にか気持ちがロケになっていく画作りで。それがまずすごいなと思ったんですけど。
富山ねえ、ブンちゃん。
井上(笑)
富山大変でしたよ。
井上今日は照明技師の方がいらっしゃってないから何でもしゃべっていいって聞いたんで(笑)いろんな格闘がありましたよね。
富山ステージが特大だといえ、黒澤プロからデカい照明がきたんですよ。僕はそういう経験ないんでびっくりして。こんなデカいの使うなんて誰がオッケーしたのかと思ったらブンちゃんなのね。
井上僕はやめてほしい方だったんですけど(笑)あの通り素晴らしい画になるので致し方ないと思いつつも、現場的にはチーフですからスケジュール進行させないといけないんで。まあ、今日いらっしゃってない照明技師さんとは戦いが(笑)僕がウロウロしはじめると、「ああブンちゃんきたから怒ってるから早くやんないと」と言いながらも、いつも同じ時間かけてライティングしていたんで。
犬童セットで撮ってるんですけど、映ってないところもずっと先まであるような空間性なんですよね。わざわざ離れてこれ撮らなくてもいいだろうみたいな距離で、なおかつ物をナメて、かつ影に人間がいる寄りまで撮ってますからね。あと、顔を見せないでやたらとシルエットの中に入れて顔見せないカットが多いというか。
井上セットだから壁はバラせるんだけど絶対バラさないでそのまんま。なのでまともなカットバックないんですよね。2カメで挟み撃ちになって同時でワンシーン回す。
犬童大きいセットだからできるということもあるかもしれないですけど、そういうことを時間をかけて丁寧にひたすらやってる感じがしましたね。
井上ライティングの設計も時間をかけてね(笑)
犬童撮り方もライティングもセットの作りも、俳優が囚われずに演技できる関係をしっかり作ってから演技をさせていく感じがしましたよね。毎日そこに通って撮ってることでできる演技というか、撮影所じゃなきゃできない映画というか。朝行く、メイクする、撮影やる、帰るみたいな。
富山なるほど。
犬童だから他の市川準映画に比べて微妙に話しづらいですね(笑)いつもは話していると「市川さんはどれもこういう映画だよね」という焦点が絞っていけるんですけど、この作品はいつもの市川さんと違う映画を作ってるんだなあっていう。
井上エンターテイメントはどうしても制約が多いじゃないですか。マニアの人に向けるわけではなくて一般の不特定多数の幅広いお客さんを想定するということは、監督としてはやっぱりいつもとは違う苦労があったんじゃないかなあとは思いますね。
犬童そうですね。
井上僕がパンフレットの製作日誌かなんかで書いてるかもしれないすけど。東宝さんでメジャーでかかるエンターテイメントなんだから「これで勝負しましょう」ってほんとに嫌味のごとく言いましたよ。「一度でいいから、初日にズラッと列で並んでる感動を知ってください」って言ったんです。やっぱり、作品の評価はあってもお客さんが並ぶ感動は別ですよということを編集室で言った記憶がありますね。「冒涜だ」とかすげえ怒ってましたけど。
一同(笑)
井上編集独特の間があるじゃないですか。ここを編集してください、こうした方がいいんじゃないですかって、僕が個人的な意見を赤ペンでバーっと箇条書きして紙だけ残したら、市川さんはそれをパッと見ただけでほんと怒ってて。そしたら編集の三條(知生)さんがこっそり「いやブンちゃん、監督あれをチラチラ見ながらやってますから」。
一同(笑)
井上それが市川さんらしくて(笑)だけどやっぱり切らないところは絶対切らないし、監督の間でやられてましたね。
犬童僕も同じで思いで、初めて観るわけではないので全体がわかって改めて観ると、ここ絶対切ったほうがいいんじゃないかというところがありました(笑)市川さん今からでも編集なおした方がいいんじゃないのってぐらいのシーンもあって、まあ今言っても絶対無理なんですけどね。
富山それは難しい話でね。ほとんどのお客さんは1回しか見ないんで。
犬童ええ、まあそうなんですよね。でも編集室にいるような気持ちになっちゃったんです。
井上あのときの東宝はちょうど市川崑さんも撮影中でしたね。
犬童なんの作品やってたんですか。
井上たぶん『黒い十人の女』テレビのリメイクかな。そしたらものすごい量の差し入れが我々の組には入ってくるんで「エセ市川の方にはいっぱいくるんだけど!」とかすっごいうれしそうだった(笑)同じ”市川組”だけど必ず「こちらですか?」とか聞いてくれて、基本的にこっち。それをすごく自慢してました。
富山ありました(笑)
井上ありましたよね。
尾形いつだったか市川崑さんと市川準さんの編集室が並んでたとかで、休憩してたときに崑さんから準さんの方に、「親戚ですかってよく聞かれるんですよ」と話しかけられたのが準さんにとってすごいうれしかったと聞いたことがありますね。
犬童音楽の谷川賢作さんてこの当時は市川崑の映画たくさんやってましたから、それも市川崑からきてるみたいに思えてきますね(笑)
富山音楽良かったでしょ、この付け方。なんか日本の西部劇の時代の感じしますもんね。
尾形「金髪のジェニー」「ダニー・ボーイ」ですね。谷川さんのCDを市川さんが気に入ったとか。
富山東宝でやったんで、東宝ミュージックの音楽出版の関係ですね。
井上そうそう。
犬童音楽プロデューサーが北原京子さんですけど、もともと北原さんが谷川さんに薦めたんでした。